歴史と由来
高麗人参の歴史は中国最古の薬学書『神農本草経』(後漢、紀元1〜2世紀)にまで遡る。上品(じょうほん)── 長期服用しても害のない最高等級の生薬として分類された。「人参」の名は根の形が人体に似ることに由来する。「Panax」はギリシャ語のpan(すべて)+ akos(治療)で「万能薬」を意味し、同じ語根からpanacea(万能薬)という英単語が生まれている。
朝鮮半島では高句麗時代から栽培の記録があり、朝鮮王朝時代には国家専売品として管理された。中国との朝貢貿易の主要品目でもあった。
日本には奈良時代に渡来。江戸時代、8代将軍徳川吉宗が人参国産化を命じ、日光・会津で栽培が始まる。「御種人参」として各藩に種子が配布された。
現代の「正官庄」ブランドは1899年設立の韓国人蔘公社が展開する。「正官庄」は「正しい官の庄(包装)」を意味し、韓国政府が品質を直接保証する唯一のブランドである。6年根紅蔘のみを使用し、栽培から加工まで一貫管理される。
科学的背景
高麗人参の主要有効成分は「ジンセノサイド(ginsenoside)」と呼ばれるサポニン群。現在までに40種以上のジンセノサイドが同定されている。主要なジンセノサイドの分類:
・プロトパナキサジオール系(Rb1, Rb2, Rc, Rd)── 中枢神経抑制的
・プロトパナキサトリオール系(Re, Rf, Rg1, Rg2)── 中枢神経興奮的
この「双方向性」がユニーク。鎮静と興奮の両方の成分を含むことで、身体のバランスを調整する「アダプトゲン」として機能するとされる。
紅蔘と白蔘の違いは加工法にある。白蔘は皮を剥いて乾燥させたもの、紅蔘は皮付きのまま蒸して乾燥させたもの。蒸す過程でジンセノサイドの組成が変化し、Rg3やRg5など紅蔘特有の成分が生成される。
知られざるトリビア
・6年根が最高品質とされるのは、ジンセノサイド含有量が6年目にピークに達するため。7年以上栽培すると病害リスクが急増し、品質が低下する。・同じ土地で連作すると「連作障害」が起き、最低10年は間を空ける必要がある。このため栽培には広大な土地と長期的な計画が必要。
・アメリカニンジン(Panax quinquefolius)は近縁種だが、ジンセノサイドの組成が異なり、高麗人参より「涼性」とされる。
・北朝鮮の開城(ケソン)は伝統的に最高品質の人参の産地として知られるが、現在は韓国の錦山(クムサン)が主要産地。
限界と論争
ジンセノサイドの作用メカニズムの多くは動物実験や培養細胞レベルで確認されたものであり、ヒトでの大規模臨床試験は限られている。抗がん作用や糖尿病改善効果についてはメタアナリシスの結果が一定しておらず、「有望だが確定的ではない」という評価が一般的。
また、ワルファリン等の抗凝固薬との相互作用が報告されており、服薬中の摂取には注意が必要。
参考文献
・『神農本草経』上品「人参」
・Korean Society of Ginseng. "History of Korean Ginseng." 2020.
・Kim JH, et al. "Pharmacological effects of ginsenosides." J Ginseng Res. 2018.
・Korean Society of Ginseng. "History of Korean Ginseng." 2020.
・Kim JH, et al. "Pharmacological effects of ginsenosides." J Ginseng Res. 2018.