歴史と由来
コラーゲンの語源はギリシャ語の「kolla(膠)」と「gen(生成)」。文字通り「膠を生み出すもの」である。古代エジプトでは動物の皮や骨を煮出して接着剤を作っていたが、これはコラーゲンが熱変性してゼラチンになる性質を利用したものだ。コラーゲンが科学的に同定されたのは20世紀に入ってから。1930年代、X線結晶解析によってコラーゲンの三重らせん構造が示唆され、1955年にG.N.ラマチャンドランがその詳細な分子構造を明らかにした。
美容成分としてのコラーゲンの歴史は意外に新しい。1980年代にコラーゲン注入(フィラー)がシワ治療に使われ始め、2000年代には「飲むコラーゲン」が日本を中心に爆発的なブームとなった。
現在、コラーゲンは28種類が同定されている。I型(皮膚・骨)、II型(軟骨)、III型(血管・内臓)が主要で、美容分野で注目されるのは主にI型とIII型。
科学的背景
コラーゲンは体内で以下のプロセスで合成される:1. リボソームでプロコラーゲンのα鎖が合成
2. プロリン・リジン残基のヒドロキシル化(ビタミンC依存)
3. 三重らせん構造の形成
4. 細胞外でプロペプチドが切断され成熟コラーゲンに
ビタミンCが不足するとヒドロキシル化が阻害され、壊血病(コラーゲン合成不全)を引き起こす。大航海時代の船乗りが壊血病に苦しんだのは、長期航海でのビタミンC不足によるコラーゲン合成障害が原因だった。
加齢に伴いコラーゲン合成能は低下し、25歳頃をピークに年約1%ずつ減少するとされる。紫外線(UV-A)はコラーゲン分解酵素(MMP)を活性化させ、光老化の主因となる。
知られざるトリビア
・ゼラチンはコラーゲンの熱変性物。ゼリーを食べれば実質的にコラーゲンを摂取していることになる。・魚のコラーゲン(フィッシュコラーゲン)は哺乳類由来より分子量が小さく、消化吸収されやすいとされるが、この点は研究段階。
・コラーゲンペプチド(加水分解コラーゲン)として経口摂取した場合、消化管でアミノ酸やジペプチド、トリペプチドに分解される。分解産物の一部であるプロリルヒドロキシプロリン(Pro-Hyp)が血中に移行し、線維芽細胞を刺激するという研究がある(Iwai et al., 2005)。
限界と論争
「コラーゲンを塗れば肌のコラーゲンが増える」という素朴な期待は、現在の科学では支持されていない。塗布したコラーゲンは分子量が大きすぎて角質層を透過できず、保湿剤としての機能に留まる。経口摂取についても、「食べたコラーゲンがそのまま肌のコラーゲンになる」わけではない。消化管で分解され、アミノ酸として再利用される。ただし近年、コラーゲン由来ペプチドが特異的にコラーゲン合成を促進するシグナルとして機能する可能性が報告されており、単純な「意味がない」とも言い切れない状況にある。
参考文献
・Ramachandran GN, Kartha G. "Structure of collagen." Nature. 1955.
・Iwai K, et al. "Identification of food-derived collagen peptides in human blood." J Agric Food Chem. 2005.
・Proksch E, et al. "Oral supplementation of specific collagen peptides." Skin Pharmacol Physiol. 2014.
・Iwai K, et al. "Identification of food-derived collagen peptides in human blood." J Agric Food Chem. 2005.
・Proksch E, et al. "Oral supplementation of specific collagen peptides." Skin Pharmacol Physiol. 2014.